病院建築の考え方

「ナイチンゲール病棟」は目にすることが少なくなりましたが、世界中で最も人気があり、多く建てられた病棟です。それは多く存在していた病院施設に比べて、看護上、はるかに機能的で管理しやすく、また患者の療養環境を十分に考えたものであったからです。病院といえば誰でも「機能的」な建物であると考えます。言い換えれば、「その中で行われる活動が効率よく快適に遂行できる」建物であることを疑いません。これは病院に限らず、他の建物にも多かれ少なかれ、当然のこととして受け入れられています。しかし、このような建築に関する考え方は、ナイチンゲールの時代には必ずしも「当たり前」ではありませんでした。立派な建物と考えられていた宮殿や教会は、まず、大きくて外観の見事なこと、左右対称で人々に感銘を与えることが第一条件だったのです。病院として初めから建てられたものは少なく、修道院、宮殿、大邸宅、刑務所、兵舎などを転用したものがほとんどでしたから、内部の構成や環境も病院本来の目的に沿ったものとは言えませんでした。そういう状況の中で、ナイチンゲールは「良い病棟とは、外観の見事なことではなく、患者に常時、新鮮な空気と光、それに伴う適切な室温を供給しうる構造のものである」とハッキリ述べたのです。機能的な建築が成立するためには、その建物が果たすべき役割を明確にしなければなりませんから、一人の看護師が病院建築の機能を示したことは重要な意味を持っています。

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